第2課
羽生での買い物


客:ためしに着てもいいんかい?
  (試着できますか?)
店員:なんでなんで、かまないで、ほう。   (かしこまりました。どうぞ。)
客:わーりんねぇ。どうだべ。  (ありがとう。どうでしょうか?)
店員:えらいいでぇ。  (たいへんお似合いですよ。)
客:ちぃっととっぽくねぇかい?  ((※少し或いはかなり)派手じゃないかしら。)
店員:なんで、だいじゅだよう。  (だいじょうぶですよ。)
客:じゃ、これくんなっせ。
 (それではこれをください。)
店員:わーりんねぇ。  (ありがとうございます。)
客:またくっから。  (さようなら。またきます。)
店員:はいよ。まってっから。  (またのご来店をお待ちいたします。)



《解説》
  1. 「ためしに〜していいん?」
    試食、試飲、試着など実際に商品を買う前にそれを確かめる場合、相手に対してこのような表現を用います。
    また、商品を買う等実際の確認作業を目的とする以外にも、日常の行動でよく使う表現でもあります。
    「ためしに行ってみたんだけど、よくねぇ。」「ためしにそのTVみたけどつまんねぇ。」等、実際におこした行動終了後にそれに対して否定的な見解を述べるときにも用いられます。(楽しみにしていたのに裏切られた辛さを合理化しているといった学説もあります。)

  2. 「ちぃっと(んべ)〜ねぇかい」
    ちぃっと(んべ)」という形容詞・形容動詞ですが、羽生語の不思議なところが「少しだけ(Little)」という意味のほか「ちょっと或いはかなり(Meny)」とういう逆とも言える意味にも使われる、というのです。この事実が知られたのは意外に新しく、外部から多くの人々が羽生に移住しだした昭和40年代以降で、その頃になって非常に特異な用法として言語学者の間で話題になりました。
    ネイティブな羽生人は「あ・うん」の呼吸とも言える発音・表情・前後の脈絡などから「Little」「Meny」の意味を瞬時に分類し区別する能力があります。
    この辺りの習得には「習うより、慣れろ」ということでしょうか。

    とっぽい」は「不良っぽい、派手好みである」といった意味です。語源として、(不良集団などの)トップのようだ、あるいは昔のTV番組の「トッポジージョ」のよう(に派手)である等が指摘されていますが、定説はありません。

  3. 「だいじゅ」
    羽生語の会話の中でかなり頻繁に使用される言葉です。「だいじゅ?(かい?)」と相手を思いやる、心配する。そしてその返事として「だいじゅ。(だべ。)」「だいじゅ、だいじゅ。」と自分に問題が無いこと、相手の心配に対してその必要が無いことを伝えます。
    語源は標準語の「大丈夫(ですか)?」からですが、「じゅ」と思い切り濁って発音するので、羽生独特の言葉に聞こえますね。

    くんな」は「下さい」という意味です。「くんない」「くらっせ」とも発音します。「くんない」は「呉れない」と混同しやすいので注意が必要です。

  4. 「またくっから」「まってっから」
    標準語の日常あいさつである「またきます」「さようなら(待ってますよ)」を羽生言葉で表わすとこうなります。これも羽生ではよく使われる表現です。覚えておいてください。


《さあ、発音してみましょう》
  1. 「ためしに〜いいん?」
    「ためしに」は音節毎に高低を付けると美しく聞こえます。〜部分はごく普通にフラットに、「いいん?」は語尾を思い切り上げて発音しましょう。さらに「かい」「べ」を付けると、かっこよく聞こえます。それでは、泥沼先生続いて繰り返し発音してください。
    「ためしに着てもいいん?」はいどうぞ。
    もう一度「ためしに着てもいいん?」
    どうでしたか上手くできましたか?

  2. 「ちっとんべとっぽっくねぇかい?」
    該当する「量」が少ない(小さい)とこほど「ちぃっと」の「ち」にアクセントが付きます。逆に「量」が多い(大きい)ときは「ちっとんべ」は一語一語を強く発音せず、さらりと早口で言うことが多いようです。(ただ、これも一概に言えません。この辺の機微は羽生人の「血」というものから理解するしかないようです。)
    「とっぽく」は「とっ」にアクセントを付け、「ねぇっ」はやや息を吸込むようにし、勢いを付けて「かい」に繋ぎます。
    「ねぇ?」と語尾を上げて疑問形にした言い方も多いようです。また「ちっとんべ」の前に「えら」などを付けると、相手に与える印象がより強まります。

  3. 「またくっから」「まってっから」
    接頭語として「なんで」を付けるケースが多いようです。決して怒って帰るのではなく「またよらせていただきますよ」という一期一会にも通じる羽生人の「わび・さび」の心が込められています。
    特に抑揚を付けず、心を込めて発音します。語尾が上がって、なにか怒ってるように聞こえる場合もありますが、そうではありません。「まってから」または「あいよ」または「またきやっせよぉ」と答えますが、こちらの発音も、特に抑揚は付けないようです。
    それでは、泥沼先生続いて繰り返し発音してください。
    「またくっから」はい、どうぞ。
    もう一度「またくっから」
    えらうまいで。それでは続いて、 「まってから」はい、どうぞ。
    もう一度「まってから」
    えらいーでぇ!
    どうでしたか上手くできましたか?

それでは、今回はこの辺で!!またきやっせ〜。


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